「長距離走者の孤独」読了。

久しぶりにまともな本読了(失礼)
前に町山智浩アメリカ映画特電で紹介されていた同名映画の原作。この間、「冷血」の巻末の広告で原作があることを知り購入。


表題作は非行少年スミスの「誠実な反抗」を描いた作品。盗んだ金を雨どいにつめて隠してたら、雨が降って流れ出てバレる。ちょっと笑った。
個人的にヒットしたのは「アーネストおじさん」
孤独な喪男のアーネストおじさんが、たまたまカフェで相席した幼い姉妹にお菓子をおごり、その嬉そうな顔に幸福を感じる。
なけなしの酒代を費やして、連日幼女たちを喜ばせるためにカフェで何でも食べさせてあげるアーネストおじさん。
しかし、他の常連客はその歪な関係をいぶかしく思い、ある日、二人の刑事がやってきて、アーネストおじさんに言う。

「いいか」と男が力をこめて言った、「われわれは“でもでも”なんて話を聞きにきたのじゃない。おまえのことはみんなわかってるんだ。おまえが誰かということもわかっている。実を言うとなん年も前から知ってるんだ。そこでわれわれの頼みだが、あの女の子たちにかまうな、今後いっさいかかわりあいになるな、ということだ。いい年したおとなが小さな子供にお金をやってはいかんのだ。自分のしていることがわからんのかね、もっと分別を持ちたまえ」
アーネストはやっと大声で抗議した。「あの子たちとは友達だと言ってるじゃないか。俺は悪いことなんかしていない。あの子たちの面倒を見てやって、プレゼントしたり、自分の娘みたいに思ってるだけだ。あの子たちだけが俺の友達だ。だからといって世話を焼いてはいけないというのか。あんた達はどうしておれたちを引き裂こうとするのだ。いったい何様だと思ってるんだ。ほっといてくれ……ほっといて」彼の声は上ずって弱々しい挑戦の悲鳴になっていた。そして混雑したカフェの客達が振り返り、何の騒ぎが持ち上がったのかと問いたげに彼をじろじろ見つめていた。

そして刑事達から二度と少女達の前に姿を現さないことを誓わされ、アーネストおじさんはまたも孤独へと舞い戻る。


この話以外にも、この短篇集に収録されている物語の人々は孤独で、しかもその孤独を歪でときには滑稽に見えるやり方で慰めていて、そこにペーソスが漂っている。
そんな「アーネストおじさん」のラスト。

それから彼は一足ごとに苦しみを振り落としていった。やりきれない気持ちが渦を巻いて消えてゆき、かつて味わったことのない深い感情がそれに変わった。真昼の雑踏に混じって舗道を行く彼の足取りには、このとき、確かな目的がこめられていた。そしてスウィング・ドアを押して、立てこんだ騒々しい酒場に足を踏み入れたとき、彼にはもう何もかもどうだってよいと思われた。美しい、たっぷり餌のついた罠に吸い寄せられるように、彼の視線はビールのジョッキにじっと注がれたが、やがて、これが唯一最善の忘却へと彼を導いてくれることになる。

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長距離走者の孤独 (新潮文庫)

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