「さよなら怪傑黒頭巾」読了。
薫クンシリーズ第三部。第二部「白鳥の歌なんか聞こえない」の解説で順番がワケわかんなくなったけど、やっぱこれが第三部らしい。
ただ、執筆時期はこの作品のほうが、「白鳥の歌〜」より先だそうで。ああ、そういうわけね。
今回は、高校の同窓会、先輩の痴話喧嘩、その先輩の結婚式を通して、「人生という兵学校」をいきぬく戦いの逃れられない滑稽な気概について。
とりあえず面白かったトコを抜粋。
そしてヒルトンホテルは、友達の革命派に言わせればまさに「ベーテー」の手先で「日本の政府独占資本と結託したアメリカ独占資本の日本人民搾取のための体制的尖兵」(ああ、ちょっとややこしいよ)ってわけ
おお、ヒルトンホテルって意外と歴史あるんだ…。歴史って、数十年だけど。
ぼくはよくオトナたちに、若くっていいな、というようなことを言われて、そういう時はいつもまあなんとなくニコニコしているのだが、実際には、とんでもない、って言ってみたくなるような気がよくしてしまう。つまり(どう説明したらいいのかよく分からないが)、この世の中には一人前の男が生きていくためのいろいろな「生活の知恵」が暗号のような形でいっぱい隠されていて、ぼくは、けっきょくのところなんとかしてそういった暗号をあの手この手で解読していかなくてはいけないらしいのだが、それがひどく難しい。(中略)つまり、若いってことは確かにおなかの出たオジサンたちなんかから見るとカッコいいものかもしれないが、こっちから言うと、いつも自分は何か滑稽なとんでもないヘマをしてるんじゃないかと感じ続けるような、妙に落ち着かない不安定な居心地の悪い時代にも思えるのだ。
そして彼は気付く。
ぼくはちょっと呆然として、自分の腰が浮き上がるような頼りない気持ちに襲われた。ぼくはこれまで、ぼくなりに努力して他人に迷惑がかからないようにと一生懸命やってきて、そして実は(おそらくみんな笑うかもしれないが)、できれば「世のため人のため」にがんばってやれなんていい調子に考えていた。でも、むしろそんなこと以前に、ぼくが生きていていろんなことをやり考え感じているということだけで、実は必ず誰かを傷つけたり軽蔑したりすることになっていたのかもしれないではないか。ぼくが何かに賛成すればそれに反対の誰かを必ず傷つけ、ぼくが誰かの味方をすれば同時に必ず誰かを敵にする。賛成も反対もせず、敵にも味方にもならないとしても、そのこと自体が多くの人間を傷つけて敵にまわす。これでは、つまり、どうしてもダメではあるまいか。
(中略)ぼくはこれまで人に迷惑かけずに、みんなになるべく親切にしようなんて心がけてきたけれど、そんなこととは無関係に、ぼくは数え切れぬほどの人々を軽んじたり傷つけてきたのかもしれない。ぼくがこうして存在するというだけで、そしてそれは、もちろんぼくだけじゃなく人間みんながそうなのかも知れない、としたら、これは……。
自縄自縛に陥る。
「つまりどことも知れぬ淋しいところを黒頭巾黒装束の彼が颯爽と行くんだそうだよ。ところが、いたるところに味方が倒れていて、彼が抱き起こすとみんな無念の涙をたたえて死んでいってしまう。そしてそのたびに彼は、残念無念って夢の中で泣いて怒鳴るんだってさ。ほんとかどうか知らないが、これにはまあ、みんなズッコケてwらったね。まいったまいった。」
でも、同じような夢はみな一度はみるのだ。
この滑稽な生き様はしかし、避けられぬ夢なのか。
- 作者: 庄司薫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2002/10/10
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