「20世紀の幽霊たち」読了。

トヨザキ社長おすすめ本。ホラー作家の枠を超えた幻想小説。いや、ホラー作家なのかどうか知らんけど。
序文と思いきや、いきなりショートストーリィが綴られ、初っ端ホラー小説傑作選の編集者が物語るメタ作品にはじまり
かと思えば、直球の幽霊譚をせつなく語る表題作。マジックリアリスム的青春小説、カフカ的モンスター小説と、多種多様な傑作短編がぎっしり詰まっとります。


「年間ホラー傑作選」にて毎年ホラー作品のアンソロジーを編集している編集者の、嘆きが語られる。

いまでは、いったん読みはじめても、結末まで読みとおす作品はほとんどない。耐えられないのだ。またぞろ吸血鬼と吸血鬼がセックスをする話を読まされるかと思うと、それだけで気力が萎えた。ラヴクラフトを模倣した作品を無理して読み進めても、痛々しいほど真剣な”旧神”への言及が目に入ったとたん、自分の内面のどこか重要な部分が麻痺するのを感じた。血行が阻害されて手足が眠ったようになるのにも通じる感覚。キャロルは、麻痺したように感じられるのが自分の魂ではないかと不安を感じた。

確か「月姫」がヒットしたあたりのメフィスト賞ラノベの投稿作品がやたら吸血鬼ものが多かったとか言う話を聞いたような。みたような。


この初っ端のメタストーリィで自らに凡庸な作品を生み出させないよう気合を入れてるような気がして、さらにはその気合が全編に渡って行き届いている。
ちなみに一番好きなのは「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」
なんと。ロメロの「ゾンビ」の、ゾンビ役として参加しているエキストラのラブストーリィという、よくこんなの思いついたなァという作品。
特殊メイクと血糊にまみれたグロテスクでさわやかなラストシーンはシュールかつ最高。

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)

ちなみに、この著者、かのスティーブン・キングのご子息。でも、作家になる際にそのことは伏せていたそう。
実力のサラブレッドですわい。