「眞実 ある芸術家の希望と絶望」

読みたい積読がすっぽりとなくなったので、知り合いから勧められて借りっぱなしだった本を読了。

幼少時の事故で左手にやけどを負い、数度の手術でも治らず、小学校時代にいじめを受けるも、右手だけで書ける絵画をよりどころに美術の世界へと系統。
美術学校時代、授業内容に不満を持ち、洋画専攻から彫刻学科へ転化。 卒業後、友人に誘われ『ゴジラ』の建物ミニチュア作成のアルバイトに参加し、以後美術スタッフとして映画界の特撮作品に携わる。
そして、円谷プロダクションにて、『ウルトラQ』の第2クールから美術監督を勤め、『ウルトラマン』にて、ウルトラマンや怪獣を作りだす。


この、ウルトラマンと、ウルトラマンの怪獣の造形に対しての深い考証に感動する。
怪獣については(以下引用)

怪獣とは神であり、王だった。神話とは人間の夢。つまり怪獣は、人間が考え出した人間という存在を超えたものであり、神や鬼への畏敬であり、恐れであるという考え方に辿り着いた。そして僕は、この世には存在しない怪獣の三原則というものを意識し始めた。今までになかった全く新しい形の創造。あの時代、僕はそれを抽象性に求めた。ただし、完全な抽象作品になっては大衆から離れたものになってしまう。僕が自分に課した怪獣の三原則とは、次のようなものだった。
1.既存の動物を、映像演出の効果だけで巨大に見せることはしない。
2.人間と動物、動物と動物を合体する表現は使っても、奇形化はさせない。
3.体に傷をつけたり、血を流させたりするような、生理的に不愉快なものにしない。
独創的であると同時に、健全に育つべき子供たちに見せることを前提とした怪獣は、オトナが守るべきモラルを踏まえた存在である必要もある。

怪獣デザイン一つにとってもこの凝りよう。この三原則を踏まえて『ガラモン』、『レッドキング』『ケムール人』のデザインを見ると、あらためてその独創性に気付かされる。


そして、さらにウルトラマン

怪獣がカオスであるとすれば、〈ウルトラマン〉はコスモス。古代ギリシャプラトンの唱えた「混沌と秩序」の考えに従って、正義、明るさといった要素のシンボルである〈ウルトラマン〉をコスモスの典型=キャノン表現しようとした。そして、顔のど真ん中にシャーと一本の直線を入れ、存在感を持たせるために目は大きくし、口は古式微笑=アルカイック・スマイルで行こうと決めた。本当に強い人間は微かに笑うものだと思う。つまり僕は、生命感のある単純さを求めたのだ(略)

そして改めてこの本の表紙のウルトラマンを見返すと、神々しいコトうけあい。影響受け安すぎるだろう自分。


その後、何十年とたった今でもウルトラマンを超えるシンプルかつ強力なデザインが出ることはない。


そんな孤高の芸術家であった彼も、商業主義の波と利権の渦に巻き込まれ、ままならない事が多々あった。以下引用。

プロダクションとは中学生でもわかるとおり物を生産するところである。それが何も生産をせず、過去の産物が垂れた糞を喰って、商人になり下り、寝ていても金が貯まるようになったら、人間はどんな人間でも堕落してゆくだけである。そして自分の堕落に気付かず、怠惰を正当化し持続するために嘘をつき始めるのである。
堕落の中からは夢も可能性も生まれない。

子供たちに夢を与えたヒーロー番組という表現の世界。同時にそこは、商業主義の温床ともなりやすい場であり、芸術家としての成田の気高い理想は、今なお、セブンのデザインを許せないでいる。

ものを生み出す人間よりも拡大再生産を続ける体制ばかりを尊重する社会には、完全な表現の自由などありはしない。たとえ心あるものでも、暗黙の了解として、利益を第一とした”ファシズムと自己規制”の中で、葛藤する間もないほどに日々をやり過ごす。

そして、晩年の作品のテーマは国内のモンスターを描くことであり、その中でも特に「鬼」に魅せられた。

「神話とは、歴史ではなく人間の夢です。怪獣は、人間が考え出した、人間の存在を超えたもの。神や鬼への畏敬か、恐れだと思うんです」

「鬼」について調べてゆくにつれ、その成り立ちに惹かれ、鬼の伝説として最も有名な大江山に鬼のモニュメントを建立する。



と、まァ、稀有な作品を作り続けてきた孤高の芸術家によって綴られた手記などをまとめられたもの。
どんな世界でも、一本の筋を通す孤高の存在というものはあるものなのだなァ……。
いや、まったく、感服した。


んで、読書メータに登録しようとしたら、どうも出てこないの。あれ?と思ってググってみたら、どうもこの本、追悼展にて刊行、発売された本(自費出版になるのかな?)ということで
まんだらけ中野店 マニア館にて12600円で売られてました。
ちょっとおしっこちびった。 気軽に貸し借りするようなものじゃないよ! でもいい本でした…ありがとう……。さて、付箋はずすか…。